透視図の定義

先にキャビネット図と透視図を例示しましたが、どちらも立体的に見えることに違いはありません。 しかし、一方は透視図であり、もう一方は透視図でないとすると、透視図と呼ぶための条件が存在することになります。 透視図とは、ある規則に沿って描かれた図です。 では、その規則とは何でしょうか? それを説明するためには、2つの概念を導入しなければなりません。

  1. 視点(Station Point、略記SP)
  2. 画面(Picture Plane、略記PP)

とりあえず名称のみを出しましたが、順を追って説明していきます。

あなたは狭い部屋の中にいます。部屋は四方が壁で囲まれ、家具もなにもありません。 唯一存在するのは、壁に取り付けられた小さな窓だけです。窓ははめ殺しで開閉はできませんが、 ガラスは曇り1つ無く、外の景色が綺麗に映っています。

あなたはおもむろ筆を持ち、あろうことか窓ガラスに絵を描き始めました。 といっても、外の景色を見えるがままになぞるだけです。卓越した筆さばきで絵はたちまちのうちに完成しました。 一見すると先ほどまで窓に映っていた景色と同じものですが、間違いなく絵具で描かれたものです。

条件が揃いました。 ここで窓ガラスに描かれた絵こそが透視図なのです。 ここでいくつかの名称を導入します。まず窓はパース用語で「画面」と呼びます。 英語ではPicture Planeですので、以降これを略してPPと書くことにします。 次に窓を見ている人物ですが、観測者(Observer)と呼ぶことにしましょう。 そして観測者の目の位置は「視点」と言います。 英語名はStation Pointです。以後SPと表記します。

透視図の定義


もちろん、通常であれば窓ガラスに絵を描くことなどないと思いますが、 透視図の原理を理解するには、上述の考え方が適しています。 紙に絵を描く場合であっても、紙の向こうに空間が広がっており、 そこに配置されたものを見えるがままになぞったものが透視図であると理解してください。

上記の方法で絵を描く場合に注意しなければならないことが2点あります。 1つは片目で物を見なければならないということ。もう1つは目の位置(SP)を終始固定したまま描かなければならないということです。


[Click] 絵の描き手と観測者の違い

上図では絵の描き手が観測者の役割を担っていますが、一般的には描き手と観測者は別箇の存在です。 これは考え方の問題ですが、絵というものは誰かの視界を写し取ったものであるとみなすことができます。 観測者とは、その「誰か」のことであり、必ずしも絵の描き手と一致しません。 例えば空想の街を描く場合、描き手は街を実際に見ているわけではないので、観測者という仮想の人物を空想の街中に配置する必要があります。 一方、現物のモチーフを用意してそれを見ながら絵を描く場合は、絵の描き手と観測者が一致します。


[Click] 視点の固定について

上述の通り、透視図法で絵を描く際は目の位置(SP)を固定する必要があります。 ここでいう目とは観測者の目のことであり、描き手の目ではありません。 しかし現物のモデルを用意し、それを見ながら描く場合は、描き手が観測者でもあるため、 透視図法に沿った視界を得るには、描き手自身が目の位置を固定してモデルを観察する必要があります。 デッサンの授業等で、視点を固定し片目でモチーフを見るよう指導を受けた方もいると思いますが、これは上述のような理由によるものです。


PPは視線の向きと直交する

透視図法における画面(PP)は下図のように視線の向きと直交します。 これは理論の問題なので、視線を変えるとPP面の角度も自動的に変わり、必ず直交性が保証されます。 PPは仮想の平面のため、この関係を崩すことはできません。

水平視線でのPP 俯瞰視線でのPP

※視心と書かれているのが、視線の向きです。視心については後の章で解説します。

PPの形状について

PPの形状は、描き手が自由に決めることができます。四角形でも三角形でも星形でも円形でも構いません。 しかし一般的な絵画や写真は長方形ですので、本サイトでも原則として長方形として扱います。


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