透視図の正しい鑑賞方法

透視図法で描かれた絵には、「正しい鑑賞方法」というものがあります。

透視図の正しい鑑賞位置

上図の青い部分に画角が120°の絵が飾られていたとします。右端の図形は透視図法で描かれた正確な立方体です。 このような広角の絵は、中央から離れるほど歪みが目立つという欠点があり、事実、右端の図形は立方体には見えないほど、奥行方向に細長くなっています。

このように明らかにおかしな見た目であるにも関わらず、それでも「正しい透視図」と言い張ることができます。 なぜなら、絵の鑑賞者が120°の視野になるような位置に立って見れば、歪みのない自然な絵として見えるからです。 すなわち図のAの立ち位置で見れば絵は正常に見え、BやCの位置から見ると、歪んだ絵に見えるということです。 重要なのは目の位置だけですので、視線の向きを変えることは問題ありません。 というより、人間の目では正面以外をはっきり見ることができませんので、Aの位置にいるときに右端の立方体を見るには、右斜めを向く必要があります。

下図は2つの視点AとBのそれぞれについて、立方体の見え方の差異を表したものです。 視点Bから見た場合は立方体は不自然に歪みますが、視点Aから見ると自然に見えることが分かります。 平面図の青い部分は60°視円錐です。

視点 平面図 透視図(実際の見た目相当) 解説
A 視点A平面図 視点A透視図 絵の上では歪めて描かれている立方体も、斜めから見ると歪みが相殺され普通の立方体に見えます。
B 視点B平面図 視点B透視図 歪んだ立方体を正面から見ると、そのまま歪んで見えます。


[Click] 視点Cから見るとどうなるの?

右端の立方体に関しては斜めから見ることになるので、ある程度正常に見えます。 しかしCから見て正面に位置する部分はやはり歪んで見えます。 視点Aは絵のどの部分を見ても正常に見える完璧な位置なのです。

視点 平面図 透視図(実際の見た目相当) 解説
C 視点C平面図 視点C透視図 本来の視点ではありませんが、斜めから見ているため、歪みがある程度相殺されます。


歪みの原因

Aは絵の画角と同じ視野になる位置ですので、ステーションポイントに相当します。 すなわち鑑賞者の目が観測者のSPと一致すれば、絵は画角に関係なく歪まないということです。 この現象を以下に説明します。

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歪みの原因

適正画角

撮影時と鑑賞時の画角の違いで、像が歪むことは分かりましたが、歪みの原因が鑑賞方法にあると言われたところで、 美術館に飾る絵でもない限り、鑑賞者に絵が想定する画角と同じ角度で見ることを強要することなどできないでしょう。 幸いにも画角が狭い範囲(望遠~標準)であれば、歪みはそれほど目につきません。 したがって、絵を描く際は許容限界を超えない画角で描くことが鉄則となります。

肝心の許容限界ですが、物の見え方には個人差がありますので、絶対にこうであるという数字を出すことはできません。 しかし一般論としては、45度程度であればまず問題なく、もう少し広げて60度程度であっても、ギリギリ許容圏内だと言われています。 また視心から離れた位置が歪みの対象になるとは言っても、そこに何を置くかにもよりますので、 一概に何度を超えているからNGというわけではありません。多少広角になっても、 画面の外側には歪みの目立たないものを置くのであれば、問題になりません。 現実的判断としては、自分の目で確認して大丈夫と思える範囲であれば、OKとするしかないと思います。

アナモルフォーシス

広角領域に描かれた絵は正面から見ると歪んで見え、斜めから(厳密にはSPから)見ると正常に見える性質があることを上で述べました。 実はこの現象を故意に利用した画法が存在し、アナモルフォーシスと呼ばれています。 身近な例では、道路に描かれた「止まれ」等の文字がこれに該当します。 あの文字は真上から見ると不自然なほど縦長に見えますが、ドライバーの視点で(つまり斜めから)見ると普通の文字に見えるよう計算されて描かれています。


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